2019年度公害資料館ネットワーク資料研究会開催報告

2019年10月5日(土)法政大学市ヶ谷キャンパスにおいて〈公害資料館ネットワーク資料研究会〉を開催しました。(法政大学大原社会問題研究所環境・市民活動アーカイブズ資料整理研究会と共催)

本年度は、環境問題に取り組むNGOの現場で活躍されている国際青年環境NGO A SEED JAPANの石原遼平さん、国際環境NGO FoE Japanの吉田明子さんを講師にお迎えし、NGOの活動状況と、日々の活動のなかで作成した資料をどのように管理・活用されているかをお話いただきました。全国から計17名の参加者が集まり、活発に議論が展開されました。

A SEED JAPANで事務局長を務める石原さんからは、A SEED JAPANの概要からお話しいただきました。Action for Solidarity, Equality, Environment and Development (青年による環境と開発と協力と平等のための国際行動)の頭文字をとって「A SEED JAPAN」と名づけられました。1992年ブラジルで開催された地球サミットに「青年の声を届けよう」という活動(A SEED国際キャンペーン)が発端となり、その後世界5地域以上で団体が発足したということです。会員は約150名、活動のコアとなるのは30名ほど。そのなかで、石原さんは①Fair Finance Guide、②パワーシフトキャンペーン、③核ゴミプロセスをフェアに!という3つのプロジェクトに携わっていらっしゃいます。

Fair Finance Guideは、大手銀行の投融資方針の社会性を評価し、その結果をWEBサイトに公開し、銀行の投融資の方針転換につなげることを目指しています。評価の基準は、国際基準を考慮した上で設けられており、評価自体は一方的なものとせず、銀行担当者に確定前のスコアを確認した上で、最終スコアとするようにしています。現在プロジェクトは11か国にまで展開しています。

パワーシフトキャンペーンは、FoE Japanとも協働しているプロジェクトで、再生可能なエネルギーへシフトする個人や企業を増やすことを目的としたキャンペーンです。

核ゴミプロセスをフェアに!は、現在までに約18,000トン排出されている使用済み核燃料の最終処分をめぐるプロセスを公正に行うよう訴える草の根プロジェクトです。

つぎにFoE Japanの吉田さんからお話がありました。FoE Japanは1980年創立の歴史ある組織です。世界75か国に200万人のサポーターがいるFriends of the Earth international(FoEI)の日本メンバー団体として活動しています。FoEIは、1971年アメリカの環境運動家デビット・ブラウアーが国際的な環境保護ネットワークをつくるために創立した組織で、国連にも正式に承認されているNGOです。FoE Japanは、会員約500名、理事16名、職員・アルバイト等コアとなって活動するメンバーが15名という組織です。

FoE Japanの活動は、現在大きく4つにわけられ、①開発金融と環境、②気候変動、③脱原発と福島支援、④森林保全となっています。どのプロジェクトも相互にかかわってきますが、脱原発と福島支援は、2011年以降に大きく動いたプロジェクトで、政府の支援から外れてしまった地域の人々の支援などに注力し、支援の幅を広げるための活動をしているということです。
また、脱原発と気候変動の観点から、A SEED JAPANなどとともにパワーシフトキャンペーンをおこない、個人、企業問わず再生可能エネルギーを提供する電力会社に変えていくための情報提供などをおこなっています。

2015年のパリ協定で合意された世界の気温上昇を産業革命前から1.5℃~2℃未満に抑えるという目標を達成するために、先進国、途上国ともに脱炭素、脱化石燃料に取り組んでいます。しかし、日本は炭素排出量世界第5位にもかかわらず、安倍首相がこうした世界の動きと逆行するように石炭火力発電所の増設を進めているとして、対応の不十分さが指摘されました。

このように、いままさに動き続けているNGOの現場で、記録がどのようにあつかわれているのでしょうか。

まず問題としてあがったのは、活動のなかから作成される資料は、そのプロジェクトにかかわった人に依存した、きわめて属人的な性質を持っているという点です。つまり、事務所の移転などを契機に、プロジェクトにかかわった人の個人宅などに分散して保存されており、過去の記録と現在の活動者が分断されているというお話がありました。

こうした記録を見直す必要がでてくるのは、10年ごとの節目などでNGOの歴史年表をつくろうという動きがあるときです。しかし、分散された資料を集めるところからスタートし、箱をあけて、1点ずつエクセルで表を入力してという作業にどれだけリソース(人員と時間)をさけるかという問題が指摘されました。

つぎに、活動範囲が広くなるとメンバーが現場にでてしまうため、会議資料の作成などはgoogleなど無料のクラウドを利用したWeb上での作業が中心となるという現状が述べられました。つまり、記録の蓄積が紙ベースだった90年代、事務所に設置されたサーバー管理だった2000年代前半と異なり、現在は時間と場所を超えてクラウドやスプレッドシートなどを利用しての情報共有が中心となり、一つのファイルをつくるにも複数の人間がアクセスして作りあげていく方式で、特定の場がアーカイブズとして機能するわけではないということです。実際に、NGOの最新の情報はWebサイトやSNSにあげられ、それを見てつぎの行動を実践するという活動方式になっているというお話もありました。

しかし、これには大きな問題が指摘されました。それは、無料のクラウドやメール、SNSは、サービスの提供が突然終了する可能性があるという点です。実際に、福島支援がもっとも活発に行われていた時代の記録は、活動メンバーによってブログにアップされていたそうですが、現在はブログのサービスが終了したため、当時の記録がすべて消えてしまいアクセス不能になってしまったというお話がありました。
また、たとえ有料サービスを使っていたとしても、使い手側の継続的な資金源の確保などの課題があり、サービス提供側にも無料のときと同じく利用提供の停止リスクがあり、オンラインでの情報をいかに保存していくかの課題が指摘されました。

NGOとしての活動の成果、つぎの運動につなぐ証拠となる記録が消えてしまうことは、活動するメンバーにとっても、記録を利用したい研究者にとっても辛いことです。Webにあげているからといって安心できないという大きな問題が浮き彫りになりました。

2019年9月23日のニューヨーク・温暖化対策サミットでは、国連のグテーレス事務総長が気候変動は「もはや気候危機であり気候非常事態」と発信し、それに先立ってスウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんが世界各国で400万人の若者たちを動員したデモをおこなっています。お二人のお話をうかがい、昨年の西日本豪雨、先月の台風15号による千葉などの被災を見ても、気候危機は身近で切迫した問題になっていることが肌で感じられました。

そんな、いまこの瞬間に動く問題に対して第一線で活動している方々に、資料保存のためにリソースを割いてくださいというのは、非現実的な問いかけでしょう。そのために、アーカイブズが連携できる方法がないか、いま作成されている記録を消さないためにどう動いたらいいのか、アーカイブズ機関に所属する身として、厳しい問いかけをいただいた勉強会でした。

最後に、石原さん、吉田さんのお話の合間に、「HOSEIミュージアムプレ企画 大原社会問題研究所創立100周年・法政大学合併70周年記念 特別展示 社会問題研究のフロントランナー ――研究所の創立から合併まで」を見学しました。

2019年2月に100周年を迎えた大原社会問題研究所が所蔵する1928年内務省作成の普通選挙実施時のポスター、米騒動資料、水平社資料、『共産党宣言』などの稀覯本等が展示されています。研究員の新原淳弘さんにご案内いただき、この機会でしか見られない貴重な資料を参加者全員で見学しました。

この展示は、法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナード・タワー14階 博物館展示室にて10月1日(火)~10月20日(日)まで開催されています(*6日,13日は閉室)
くわしくはhttps://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/topics/1568184091/1568184091_3.pdf

文責:川田恭子