環境問題を記録する視聴覚資料

<環境問題を記録する視聴覚資料の重み>

 資料には雑誌や書籍、文書やモノなど、様々な形態があるが、視聴覚資料もそのひとつだ。環境アーカイブズには1950年代から現代までの資料が所蔵されているが、1970年代半ば以降の資料の一部にはカセットテープやビデオテープなどの視聴覚資料が含まれ、環境問題の記録が音声や映像で残されている。どんなことも手軽にスマートフォンなどのデジタル媒体で記録できる今とは違い、家庭用機材の実用化が進み始めたばかりの当時は、そう簡単に音声や映像をとったり、残したりすることなどできなかっただろう。その点で、科学の進歩や急速な開発と裏表に深刻化した公害・環境問題が視聴覚媒体に記録されて今日に残されたことは、重い意味を持つに違いない。

 

<実証的な教育・研究の軌跡――大崎正治氏寄贈 開発・生活環境関係資料>

 筆者は現在、視聴覚資料の整理を担当している。最近、目録公開作業が完了したのは、「0018大崎正治氏寄贈 開発・生活環境関係資料」である。國學院大學経済学部教授だった大崎正治氏が環境問題、とりわけ開発による水質汚染や水源破壊などの実情に基づき経済学を追究する過程で作成・収集した「教育・研究」に関わる資料群であり、「スクラップブック」「ファイル」「ミニコミ」「視聴覚」「その他」に分類して整理されている。視聴覚資料には大崎氏やその研究グループが作成した調査映像や音声などが含まれており、神奈川県の宮ヶ瀬ダムや福岡県の筑後柳河、フィリピンやタイの少数民族などへの取材が記録されている。

 視聴覚資料を整理していて思うのは、各資料群がそれぞれ違う角度から環境問題を映し出しているということだ。「教育・研究」上で収集・制作された大崎正治氏寄贈資料の視聴覚資料は、先にも述べたが開発問題や水資源などに関連したものである。重要な課題の存在する現場を実際にフィールドワークして調査した過程が、映像や音声に残されている。例えば、この資料群のひとつである『水没する村と住民』(請求番号0018-V-0020、画像1)は大崎氏のゼミナールで1984年に制作された映像作品で、神奈川県の宮ヶ瀬ダム建設によって水没する前の村の様子や、集団移転地(画像2)に住まいを移した住民のインタビューを収めている。

 このような資料は、特定の環境問題の歴史や経緯をものがたるひとつの記録だが、そればかりか研究者や学生たちがいかなる方法で環境問題を探究したのかということの記録でもある。1980年頃より、環境問題の現場のフィールドワークから「生活環境主義」という立場が生まれ、地域の事情や住民たちの暮らしに合わせて培われてきた工夫をすくい上げようとする社会科学的な研究が行われた(鳥越 2004)。経済学者である大崎氏も、時を同じくして理論研究だけでなくフィールドワークを取り入れ、環境問題に根差した経済学モデルを追究した。大崎氏の視聴覚資料からは、その実際の方法を窺い知ることができるのだ。

 

 

(右:画像1 タイトル、左:画像2 集団移転地)

 

<メディアがいかに伝えたか――原子力資料情報室寄贈視聴覚資料>

 一方、「0047原子力資料情報室寄贈視聴覚資料」は、現在も未作業部分の公開準備が進められている。この資料群は、市民の立場から原子力の問題についての調査・研究を行ってきた原子力資料情報室が、市民活動に役立つ情報を提供する目的で収集したものである。この資料群には関連の団体が主催した講演会などの映像記録の他、「メディア報道」の映像資料も含まれていて、原発事故や核燃料サイクルなど原子力に関する様々なニュース番組やドキュメンタリー映画などが含まれている。

 「メディア報道」の資料には、原子力についてメディアがいかに語ってきたのかが記録されていて、それは言い換えれば、「環境問題がいかに社会的に認識されてきたのか」の記録ともいえる。原子力だけでなく、温暖化や化学物質汚染など様々な環境問題は目に見えず、その直接的な被害者にさえ認識されにくい。だからこそ、メディア報道が取り上げることによって「問題」が存在することが認識され、さらに一部地域で起きていることが全国へと顕在化するようになる(関谷 2015)。メディアが、私たちの環境への意識を多かれ少なかれ左右しているのだ。

 問題が問題として顕在化していない環境問題を、いかに視覚的に表現し、その重大性を広く訴えるか。公害・環境問題が深刻化した時代をより深く理解するために、環境アーカイブズがこのような模索を行ってきたテレビなどのマスメディアの視聴覚資料を保存する意義は大きいといえるだろう。(瀬尾華子)

 

参考文献

関谷直也・瀬川至朗編,2015,『メディアは環境問題をどう伝えてきたのか公害・地球温暖化・生物多様性』ミネルヴァ書房.

鳥越皓之,2004,『環境社会学生活者の立場から考える』東京大学出版会.