環境・市民活動アーカイブズ資料整理研究会レビュー

 2022222日に開催した、環境・市民活動アーカイブズ資料整理研究会(公開オンライン開催)「図書から広がる市民活動資料の世界」のレビューを、おふたりの評者にお願いしました。

 お読みいただければ幸いです。

*研究会プログラムの概要については、以下をご覧ください。

https://k-archives.ws.hosei.ac.jp/event_detail/20220125/

 

図書から「収集」と「学習」を考える

Fung Wan Yin Kimberly(フン・ワン・イン・キンバリー),一橋大学社会学研究科 博士後期課程

 

 環境・市民活動アーカイブズ資料整理研究会「図書から広がる市民活動資料の世界」は、市民活動資料のなかの「図書」の位置づけを考えるための企画であった。ミニコミから一般図書まで、アーカイブズに所蔵された市民活動資料を広義に捉えるための有意義な議論がなされたように思われる。

 

  • 図書の「まとまり」

 この研究会における「図書」とは、東京都立多摩社会教育会館市民活動サービスコーナーで、市民活動の交流や学習のために収集・整理された「図書」である。その中には、市民団体発行の機関誌や報告書だけではなく、ISBNや定価が明記され一般に流通している書籍も含まれている。現資料担当の加藤報告では、問題提起として、「図書」の「多様性」と「一体性」という言葉が提示された。つぎに、元環境アーカイブズRAの宮崎報告では、「図書」の整理と活動の可能性が議論された。最後に、市民活動サービスコーナー元職員の山家報告では、サービスコーナーの設立の経緯から、「図書」が集められた具体的な文脈を紹介された。

 加藤報告では、「図書」のテーマも形態も多様である一方、一体した問題関心によって「まとまり」があると指摘された。そして、宮崎報告では、「図書」の分類の割合からみると、教育問題に関する「図書」が多いということがわかった。山家報告では、1972年から2000年までにおける、関連図書・資料の収集の分類による点数に関する記録が共有された。教育関係の「図書」のほかにも、行政郷土資料や社会福祉に関する「図書」が多く収集されたことがわかった。

 

  • 「図書」から広がる市民活動像

 「図書」の「一体性」をどのように活かして市民活動に新たな知見を生みだすかというのは、筆者の主な問題提起である。「図書」に注目するのは、市民活動資料の多様な形態に目を向けることであり、市民活動の概念と実際を考えなおすことでもある。それは同時に「収集したもの」から市民活動を捉えるという方法論の問題でもある。多様な市民活動資料の異なる側面によって、見えてくる市民活動像がどう変わるか。

 調査の際、筆者も市民活動団体の刊行物を、しばしば集める。ミニコミや講座で配った資料、手作りの展示パネルは、団体が自ら収集した「図書」に基づいて、勉強会などの会合を重ねて作り上げたものである。それらの「図書」は、各個人が持っているものである場合もあれば、団体の事務所など場所においたものである場合もある。

 このように、「図書」の収集という側面からみると、市民活動が行われる場における「前景」と「後景」と、その両者の重層的な関係が示されるように思われる。市民活動団体の刊行物をはじめとした、団体の発信が「前景」を捉えるとすれば、それらの刊行物と発信を、「後景」で支えている参照資料や問題関心がある。

 また、そうした「前景」と「後景」の区別は、静態的ではなく、「前景」で作成された団体の刊行物が、ほかの個人や団体に「後景」の参考資料として用いられることもあるだろう。その他、「図書」とその収集そのものが活動の目的である場合も多くみられる。実際、筆者のフィールドにおいては、市民活動の団体が自らの活動に関連する図書や新聞記事などを集めて資料館や学習センターを立ち上げる試みも見られる。

 

  • 継続する収集と学習

 「図書」から広がる市民活動像は、市民活動における/としての「学習」と「収集」だと考えられる。市民活動を理解する際、個人や団体、ある特定の運動または領域など、分析の単位が設定されることが多いが、過去の運動の経験や出来事を含めて、市民活動の軌跡は、しばしば設定された単位を超えている。アーカイブズの「図書」は、市民活動の「問題関心」や「文脈」など、分析単位を設定しにくい「後景」に光を当てている。

 「図書」の「まとまり」は、継続する収集と学習によって、単一で完結したものにはならない。サービスコーナーでの図書と資料の購入は、当時の関心に基づいている。その関心は、サービスコーナーの活動とともに変化しつづける。ほかの団体から寄贈された刊行物もある。そして、言うまでもなく、利用者によって、同じ本であっても利用のあり方が変わる。さらに、継承運動を経て、環境アーカイブズと市民アーカイブ多摩に、後継資料群の形成と活用が続けられている。

 このように、「図書」は、複数の関心によって形成され、そこからまた新たな関心が生み出され、重ねていく。そのような収集と学習こそが、市民活動を支える基盤であり、その現場でもある。「図書」は、そうした市民活動の基盤を捉え直すきっかけをくれた。

 

 

「図書から広がる市民活動資料の世界 ―東京都立多摩社会教育会館旧市民活動サービスコーナー資料「図書・雑誌」目録の追加公開に当たって」に参加して

江頭晃子,ネットワーク・市民アーカイブ事務局/元市民活動サービスコーナー職員

 

 2011125日、市民活動サービスコーナーで収集していた資料500箱を立川市旧多摩川小学校から法政大学に運搬してから10年が経過した。ミニコミだけでなく、図書・冊子類の入力・整理が終わり、書架に並べられ公開の条件が整い、シンポジウムまで企画してくださり、感無量だ。最初に寄贈依頼に来られた金慶南さん、運動家兼専門家でもあり受入条件を整えてくださった舩橋晴俊さん、丁寧な保存作業を進められた清水善仁さん、運搬作業でともに汗を流したスタッフ、入力・整理などで議論したり実務を担われた高江洲昌哉さんやRAの皆さん、多くの環境アーカイブズの皆さんのお顔を思い出す。心から感謝申し上げたい。

 当初の環境アーカイブズからの寄贈依頼は、団体発行の通信や会報などの逐次刊行物(ナンバリングがついている、以下「ミニコミ」)であった。図書については難色を示されたが、ミニコミと分けずに資料群として受け入れてほしいという当会の意思を尊重してもらったものの、とりあえずの受け入れであった(廃棄する場合は当会に返してもらう意味で当初は寄贈ではなく寄託とした)。整理作業もミニコミが終わった後で図書入力となったが、法政大学図書館が所蔵しているものについては保存しない方針で図書館DBの検索作業から始まった。大学図書館にはほぼ所蔵していない(数パーセント程度)ことが分かり、途中からこの作業もなくなり、入力作業に集中することになった。更に今回報告があった宮﨑翔一さんの報告で、入力項目をより絞り込み、データの再チェックなど確認作業を重視、早期の全面公開につながったことが見えてきた。

 

  • 形態で資料をみる

 山本唯人さんが、市民活動サービスコーナー(以下、「コーナー」)では図書類は内容で整理してきたが、環境アーカイブズは形態別に注目したという話があったが、宮﨑報告は実際に新鮮だった。約12,000点の図書類のうち、一般流通している図書が52%、その他(刊行物や報告書など自費出版物)が45%という結果だ。「その他」は、コーナーでは「冊子類」と呼んでいたもので、薄いものが多いため、スペースは少ないが冊数的には半数近かったことに改めて驚いた。ビラ・チラシ、ミニコミと並んで、冊子類は市民活動資料の3大柱である。会の活動報告、研究調査等から分かる事実・問題の所在、集会などの報告書、会報・通信の合本、周年記念誌、当事者の声やアンケート結果報告書、ノウハウ本など、活動が凝縮されており、ほとんどが自費出版で流通していない。発行者にとっては冊子にまとめ、言語化し伝えることを通して、活動の土台が太くなっていくという相乗効果もある。団体関係者の手元にある以外は、国会図書館はもちろん地元の図書館に保存されていないものも多い。模索舎創設者の一人で当会の運営委員でもあった五味正彦は、一般流通していない冊子類を含めて「ミニ・コミ」と定義していた。

 

  • 司書・アーキビストと活動家

 資料寄託をした当初は、協同で文書整理研究会を開催し、議論を重ねた。当会と共通のデータベースソフトによるミニコミの各号入力や配架の分類順などを提案したが、環境アーカイブズでは公開の迅速化と保存を優先した。ミニコミのホッチキスを外し、紙縒りで綴じ、中性子箱に収めていく作業は、環境アーカイブズだからこそできたことだ。

 現在進行形でミニコミを収集・利用に供している市民アーカイブ多摩に関わるスタッフは、活動に関わっている人が多く、資料をいかに市民活動・運動そのものに活かしていくかという横の連携を先に考えながらの整理作業になるのだが、縦軸の歴史を重視した所在の早期共有化と保存の視点を、今回のシンポジウムでも叩き込まれた。内容と形態、縦と横軸、アーキビストと活動家の両視点から、資料の全体像をリスト化することで次の構想を前に進められるのだ。

 

  • 多様な事業がよりよい資料収集に

 加藤旭人・山家利子報告では、コーナー時代の3つの事業の柱の紹介があった。①の市民活動資料の収集は、②市民活動情報の発信、③市民活動の交流の機会事業があることにより、市民団体間でしか流通していない冊子類が集まったと言えよう。③交流の機会としての「市民活動交流のつどい」(毎年テーマが変わる)を企画担当した時、そのテーマに関する市民団体を探し、活動概要、問題の所在や制度的課題を把握するために集会に参加し、冊子類などを集めて読み込むことから始める。交流のつどい当日は、団体発行の冊子類の交換・頒布も行っていた。②の情報発信事業も同様で、それらが①の資料収集を厚くし、資料がブレインとなることで、反対に②③の事業構築が適格なものになっていった。「市民活動資料」の収集を考えるとき、その循環の重要性を改めて思い出させられた。動きのあるところに動く資料は集まってくる。

 

  • それぞれ、そして共同の課題

 今回のシンポジウムは、私たち市民アーカイブが、これまで見ないふりをしてきた冊子類の重要性をつきつけられた形だ。ミニコミを収集していると、同じように団体発行の冊子類は集まってくる。ミニコミ発行団体がつくったものは、ミニコミと一緒に綴じこんでいるものもあるが、単独の冊子類は宙に浮いたままであり、事務局で段ボール保管しているものだけでも50箱を超えている。

 環境アーカイブズの課題は、宮﨑さんが「ミニコミ・図書・雑誌の横断的検索機能の追加」と「法政大学多摩図書館「多摩地域資料」との連携」の2つを挙げた。法政大学多摩地域資料の多くは行政発行や一般図書であり、そこに市民団体の冊子類が加われば、多摩の視点が広がる。そのためにも、前者の機能追加が必要で、横断検索に多摩地域や市町村別のキーワードでヒットできるかが重要になってくる。

 

 大きな組織は時に個人の主語を奪う。東京都が30年間蓄積した資料を一瞬で廃棄扱いした経験を持つ私たちは、大きな大学組織への不安感を最初はぬぐい切れなかった。地道な整理作業を間近で見て、それは大きな信頼に変わっていった。公開の準備が整ったいま、今度は私たちが主語を取り戻し、次の10年の並走の始まりを感じたシンポジウムだった。